「異端の統計学 ベイズ」を読んだ。

購入のきっかけはタイトル買い。
ベイズと付いてたら買わなければならない病気にかかっているので。

内容

 ベイズ統計が過去歴史の中で、どのような取り扱われ方をしてきたのかを紹介するもの。 塩野七生が書く系のジャンル。なんていうのあれ、歴史エッセイ?
もう少し言うと、ベイズ則とそれを下敷きにした道具立てに関わった人となり、
各時代におけるベイジアン的発想のの扱われ方、具体的な応用事例とその成功についての紹介。

良いと思ったところ

 類書は無さそうに思う。よく頻度主義、ベイズ主義みたいな話を耳にするが、
具体的に過去にどういう論争があったのか、どういう経緯で発展してきたのかを知らずに
ベイズの道具を使うことになってしまった、というようなタイプの方には良いと思う。

気になったところ

 無駄に厚く、文章が読みにくい。これは翻訳のせいではなくて、原文のせいだと思う。

 要所要所で、事前確率等の専門用語の説明がさわり程度というか、妙だ。そのため、なんだかわかったような分からないような…というようなという感じのまま、しかし理解している前提で話が進んでいく。そのため、後の文章でこれには批判があった、というようなことが書かれていても、一体どこを問題にしているのかが大変わかりにくい、または分からないということが何度かあった。
たとえば、ギブスサンプラーの解説はこう。

ギブズ・サンプラーマルコフ連鎖モンテカルロ法の一種。変数がたくさんある場合に、各ステップでただ一つの変数に注目するという形で、順次着目する変数を変えてサンプリングを繰り返す

これは分かっている人向けの説明だし、この説明の前にMCMCの話は出ていないため、最初の一行が既に無意味。一体だれのための説明なのか、そもそも歴史エッセイにこのような説明が必要なのか、と首をかしげてしまう。よって、この分野全然知らない人には勧められない。

 また、行きがけの駄賃と言わんばかりに解説のない専門用語、些細なエピソードを、「ついでに」挟んだような文章が頻繁にある。ベイズというキーワードに共起する専門用語を文章中に必ず含めなければいけない呪いにでもかかっているのだろうか。調べた内容はすべて書かないといけないと思っているのだろうか。

 これらが無ければ1/3くらいの厚さの本になっていただろう。この点は、先述の点と相乗効果を発揮し、読みにくさに拍車をかけている。

まとめ

 厚いし読みにくいので読了までの時間が長く、コスパが低い。
扱っている内容は良いと思うので、関連する分野の人で時間に余裕のある人は読んでもいいかも。

 ところで「異端」という言葉を煽りに使いたかったのかな、という勘ぐりをしたくなるくらい邦題と原題は違う。
原題は以下。こちらの方が内容とあっていると思う。

The Theory That Would Not Die: How Bayes' Rule Cracked the Enigma Code, Hunted Down Russian Submarines, and Emerged Triumphant from Two Centuries of Controversy

とはいえ、タイトル買いしてしまった自分には商業主義を呪うことくらいしかできない。